Sunny place

















 19














「それでは、いってきますね。…さん」




言葉がどこかぎこちないのはとはなれるという悲しみからだろう。


いつになるのかはっきりしていない。


それでもがちゃんと気持ちの整理ができるまでの時間。


それはあっという間のものか。


それともとてつもなく未来のことなのか。


それはにさえ分かることではなかった。


は小さく手を振って二人を見送った。




「二人とも、いってらっしゃい。…無茶しちゃダメだよ?」


「はい!」


「ああ。それじゃあいってくる」




クレスは剣を一度確認してから歩み始めた。


それに続くのはミント。


は二人が見えなくなくまで見送っていた。




門を潜り抜けると広大な草原がそこに広がっていた。


風が吹いて、波のように草が揺れるのだ。


村が小さくなる頃、ミントはそっとクレスに尋ねた。




「本当に、良かったのでしょうか。慣れない土地に一人にしてしまって」


「……うーん」


「クレスさん?」




ミントは曖昧に言葉を濁した彼にそっと言う。


決して軽蔑した風な口調じゃなくて微かに伺う程度のものだった。




「一度やると決めたことは絶対に曲げないからな、は……」


「……え?」


「ううん、なんでもない。きっとなら大丈夫だよ。……僕たちは今できることをしよう」




今できること。


それは山を越えたさらに北。


ユークリッドの村。


そこでレニオス村長に紹介された人物に魔術の手がかりを尋ねること。


それは後々にダオスとの決戦のとき、有力になるだろう。




「はい」




遠い未来を見つめてミントがしっかりと頷いた。









 +









の魔術入門は、まず知識を付けることから始まった。


レニオスの書斎に自由に立ち入ることを許され


ほとんど一日中その部屋の中で文字を読み進めていった。


プライマル・エルヴン・ロアー。


エルフが使用していた古代の言葉で、ざっと300年ほど生きている


レニオスが念を押す本らをは辞書を片手に読み進めていくのだ。


静寂の空間の中に彼女に小さな息遣いとひらり、と紙をめくる音だけが聞こえていた。


長閑な空間だった。


実に平和だ。


嫌味なくらいに。


時折となりで丸くなるリーフェをなでてはまたひらり、とめくる。


本当に一日中何も食べずに没頭する日もあれば、


気晴らしに、と外に出て南の森のほうにいってみたり、


村の住民たちと他愛もない会話を楽しんだり、奥さんの家事を手伝ったりと、


特に暇をもてあますこともなかった。


そしてその時間は少しずつ自分を回復の方向へと向わせていた。





「呼びましたか?レニオスのおじ様」




1週間がたったころ。


はもうだいぶこの環境にも慣れていた。


レニオスは彼女に正面の椅子に座ることを進め、はそれに素直に従った。




「魔術の勉強は捗っておるかの?」


「お蔭様で順調に。……とは言ってもまだ齧りかけではありますが」


「いやいや。お前さんの理解の速さには感心するばかりじゃよ。


 この村の連中ともうまくやれ取るようじゃしの」




まったりと微笑むレニオス。


はつられるように微笑む。


頃合を見てレニオスがそっと小箱を差し出す。


木でできた箱だった。


それもずいぶんと古い。


それを見つめながら小首をかしげる


彼はあけてみるように促した。


は小さく一度頷き躊躇いがちに小箱を手に取り蓋を取る。




「これ…は?」




クッションのような白い布地に包まれたそれ。


透き通る深緑色の石。


奥を覗いてみると奥に進むにつれてその色の深さは濃いものとなる。


最深部の黒色に思わず目を奪われた。


恐る恐るクッションから取り出してみる。


そして奥の金属に気がついた。


小柄の針と螺子(ねじ)が一つ。


ピアスだった。


それも、片方だけの。




「マナを多く含んだ石から作られたピアスじゃ」


(マナ……)


「これでクォーターのお前さんでも魔力のコントロールがいとも簡単にできるようになる」


「これを、私に…?……本当に、いいのですか?」




顔をしわだらけにして彼は微笑んだ。


は胸にこみ上げてくる何かを覚える。


この時代に来て、一人になって、心細くないと言えばうそだ。


けれどもそんな中で得た知識・人情はきっと


元の時代に戻ったとしても忘れることはできないだろう。


それくらい、嬉しかった。


箱に大切にしまって箱ごと握り締める。




(私も、みんなに応えたい)














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