Sunny place

















 22














『時だよ』




男の子のような呂律の回らない可愛い声。


あまりに綺麗に響くものだから一瞬全員がフリーズした。


クレス、ミントは一歩引く。


クラースは驚きながらもまじまじと見つめていた。




「しゃ、しゃべった!この猫!」


「え、あれ?聞こえてるのクレスのお兄ちゃん」


「ほ、本当に話すんですね…」


「ミントのお姉ちゃんにも…」




は内心驚いた。


今までずっと聞こえなかったらしくずっと変なことをいっていること思われてきたからだ。


はリーフェを皆に向けるように抱きなおす。


リーフェの尻尾のリングがほう、とひかった。


話すのに合わせて、ひかる。




『お前たちがいたアセリア暦4304年はマナがあまりに少なかったからね。


 主に声を届けるだけで精一杯だったんだよ』


「マナが、少ない……?」


「ええ。この世界に来て私も気がつきましたが、もともといた世界はなぜかマナが少なくて」




苦しかった。


それもかるく息苦しい程度のもの。


クォーターにはさほど影響がなかったようだった。


けれどもやはりこちらの満ち溢れたマナの心地は酷く自分をすがすがしくさせてくれる。




「そういえば少し前にクラースさんと契約した精霊、シルフもそんなことを……」


「ええ。このままではマナがなくなってしまう、と」


「……。このままいけば僕たちがいた世界みたいに……」




マナが薄くなる。


それではダメなんだ。


魔術はマナの力を多く必要とする。


の調子がいいのも、きっとマナのお陰だ。


リーフェはしっぽでちょんちょんとを突いた。


は静かに頷いた。




「なら、今からいってみない…?話を聞きに……マナを作り出す大樹の所まで」









 +









割と低い位置を飛ぶ。


箒に横座りして、みんなの歩幅に合わせて。


は涼しそうな顔をしながら高さ1メートルくらいの所をすいすい泳いでいた。


はじめは何度もお尻を打ち付けたり、高く舞い上がり落っこちそうになったものの


最近はなんだか調子がいい。


魔力の放出とマナのコントロールがうまくなってきている証拠だった。


を先頭に3人は森の中を歩く。


3人の視線は無意識のうちに珍しい物へと奪われている。


に特に気にしている様子はなかった。




「ここだよ。ユグドラシルの大樹」




そっとが触れると半透明な女性がふわりと現れた。


何度か面識のあるに少し苦しそうな微笑をこぼして


クラースたちに向き合う。


は地に足を付けてマーテルを見据えた。




「この大樹に宿る精霊、マーテルです。聞いてください……


 滅びの時期が近づいています。大樹の死期が」




それが魔力のとに関係があるのか。


クラースは顔を渋らせてそう思ったようだった。


リーフェはマーテルの後を引きついで話す。




『さっきもが話したけど、この大樹はマナを生み出す唯一の根源。


 この木の死――それはマナの消滅』


「なんだって!」




クラースが声を上げた。


マーテルは三人に頷きかけた。


クレスが大樹を見上げてふと、何かを思い出した。




「クラースさん!リーフェがいっていることは本当ですよ。


 僕やミントや、がいた100年後の世界には魔術なんてなかった!


 それに僕…この木を知っているんだ。僕はこの森で、


 チェスターという親友と、と、三人でよく猪狩りをした」




一度が目を伏せた。


チェスターという単語に少しだけ反応を見せた。


けれど3週間前と違うのはそれがほんの僅かの間だったということだ。




「私はあの日見たの。この大樹が朽ち果てていた姿を」


『………』


「マナはこの大樹が永遠にいき続けるために必要なもの。


 魔術に消費されたくらいでは本来失われるはずがないのです。


 何かが、何らかの強い力が、マナを大量消費しているとしか思えないのですが……」




私にはどうすることもできません。


それだけ言い切るとマーテルは再び木に戻ってしまう。


は大樹の樹皮に触れて「ありがとう」とこぼした。


一枚の木の葉がひらりと落ちる。




「マナを大量消費する原因を取り除く手もあるな。目には目を


 こちらも対等に勝負するためにシルフだけではなく……やはりルナか」


「ルナはこの時代で休眠からさめているもっとも強大な力を持つ精霊ですね。


 しかし契約の指輪は…確かアルヴァニスタの……」


「ああ。モーリア坑道に眠っていると言われている」


(………さん。一体3週間で何があったのでしょう)


(僕も思った。そんな知識どこから……)




クレスとミントが顔を見合わせひそひそと耳打ちあう。


彼女なりにきっと努力を続けていたのだろう。


少しでも力になれるように。


もう二度と足手まといにならないように。




(僕も、負けてられないな)














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